résumé 1970-2016

初恋

わたしの名を呼ぶ
かすかな声に誘われて
真夜中の中庭に出てみたら
少年がひとりぽつねんと
頬を桃色に染めて
恥ずかしそうに俯いている

――名前を呼んだのは君?
彼はそっと顔をあげ
何も言わない代わりに
ほんの少しだけ睫を震わせた
右腕を胸の前で美しく交差させ
心臓のあるところに掌を当てて
まるで心のなかの溢れでそうな思いを
ぎゅっと押さえているみたいに

――君は誰?
でも、わたしは彼を知っている
いつどこで逢ったのかは知らない
それはどうでもいいことのような気がした
彼の深い色をした瞳を見つめていると
生まれたばかりの悲しみや喜びが
渦巻きの宇宙のように
大や小の爆発を飲み込みながら
無限に広がっていくのが見えた

――寒いからお入り
愛しさに一歩前に踏み出すと
少年はわっと飛びのいて
そのとき
流れる時間の色が変わってしまった
警戒とも蔑みとも絶望ともとれる
表情に一瞬顔を歪ませて
少年はくるっと背を向けて走り去った

わたしは喪ったものの大きさに
打ちのめされてしばし声もなく
ただ自分のつま先を見ていた
そしてそっと呼んでみた
少年の名を
そして不思議に思った
なぜ名前を呼ぶのだろうかとf0068217_1856126.jpg
[PR]



by murasakitsukumo | 2005-09-18 04:31 |

L'ame aussi,si elle veut se reconnaitre, devra regarder une ame (Platon)
by murasakitsukumo
プロフィールを見る
画像一覧
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31

お気に入りリンク

ファン

記事ランキング

ブログジャンル

画像一覧